東京高等裁判所 平成元年(行コ)4号 判決 1989年11月30日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が昭和五八年一一月一六日付けでした控訴人の昭和五六年度分所得税の更正決定及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
3 訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文一項同旨
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか原判決の事実として摘示されたところ(添付の別表及び第一、第二別紙物件目録を含む。)と同一であるから、これを引用する。
1 原判決二枚目表八、九行目の「昭和五六年度」の次に「分」を加える。
2 同二枚目裏九行目の「同月一四日」を「同年三月一四日」に改める。
3 同三枚目裏一行目及び八行目の「本件更正処分による」をいずれも「本件更正処分における」に改める。
4 同五枚目裏六行目の「(二)」を削り、六枚目裏二行目の「次男」の次に「大二郎」を加え、五行目の「昭和五五年七月二六日、」の次に「地上家屋を撤去して宅地造成したうえ土地付き建物の分譲をするため、」を加え、六行目の「右家屋等及び右土地上の借地権」を「右家屋を含めて右土地の借地権」に、八枚目表三行目の「(三)」を「(6)」にそれぞれ改める。
5 同八枚目裏一行目冒頭から五行目末尾までを次のとおり改める。
「(二) さらに、固定資産交換につき所得税法五八条が適用されるためには、前記(一)の要件に加えて交換時における交換取得資産の価額と交換譲渡資産の価額の差額がこれらのうちいずれか高い方の価額の一〇〇分の二〇を超えないことが必要であるから、仮に売買契約の一部の合意解約による交換取得土地の取戻しが新たな取得と認められない場合でも(すなわち、要が昭和五五年七月二六日以降も引き続き同土地を所有していたと認められる場合でも)、本件土地交換には、所得税法五八条の適用はない。すなわち、」
6 同一〇枚目裏二行目の「同(二)(1)冒頭の」から四行目末尾までを「同(二)の事実を否認し、主張を争う。ただし、控訴人が要との間で交換譲渡土地と交換取得土地とを交換したことは認め(もっとも、契約日は、昭和五六年五月初めではなく同年六月二六日ころである。また、交換譲渡土地は、川口市西青木二丁目六六七番一宅地二二九・五〇平方メートル及び同所同番二宅地二三〇・〇〇平方メートルの二筆に分筆されていた。)、交換譲渡土地が要から初穂に昭和五六年五月八日一億一六五〇万円で売却されたことは不知。」に、六行目の「交換差額が常に支払われる実情を」を「交換差額が常に考えられるのが実情であることを」にそれぞれ改める。
7 同一一枚目表五、六行全部を削り、「(一) 抗弁2(一)の冒頭前段の主張を認め、冒頭後段の主張を争う。」を加え、七行目の「(2) 同(二)(1)のうち」を「(1)同(1))のうち」に改め、八行目の「要と政治との間には」の前に「後記のとおり、」を加え、一一枚目裏一行目の「(3)」を「(2)」に改め、三行目の「乙第五号証の売買契約書は、」を削り、五、六行目の「逸脱して」の次に「売買契約書を」を、九行目の「右売買契約は、」の次に「造成した宅地の分譲する都合上、」をそれぞれ加え、一二枚目表二行目の「(4)」を「(3)」に、八行目の「(5)」を「(4)」に九行目の「(6)」を「(5)」に、末行の「契約日」から一二枚目裏三行目の末尾までを「契約日を否認する。契約日は前記のとおり昭和五六年六月二六日ころであり、交換譲渡土地は二筆に分筆されていた。」に、五行目の「(三) 同(三)の主張は争う。」を「(6)同(6)の主張は争う。」にそれぞれ改める。
8 同一二枚裏一〇行目の「(四) 同(四)の主張は争う。」を「(二) 同(二)の主張は争う。」に、末行から一三枚目表四行目までを「被控訴人は、要と政治との間に賃貸借契約があったとしているが、契約書を作成しておらず、固定資産税分の負担だけで地代が支払われていたわけではないから、兄弟間の好意による使用貸借関係に過ぎない。また、被控訴人は、借地権の価額を四〇〇〇万円と認定しているが、底地が一億三三六〇万円で売却されていることからして借地権の価額というには余りにも低額に過ぎるというほかなく、これは、要があづま商事を通じて移転する政治を援助するために与えた生活資金か、そうでなければ同人との間の使用貸借関係を解消するための明渡料とみるべきものである。」にそれぞれ改める。
9 同一三枚目裏九行目の「租税債権確定のために」を「租税債権確保のために」に改める。
第三 証拠<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人の請求は失当であると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決の理由として説示されたところと同一であるから、これを引用する。
1 原判決一四枚目裏九行目の「昭和五六年五月初め、」を削り、一〇行目から末行の「当事者間に争いがない。」を「当事者間に争いがなく、<証拠>によると、控訴人と要は、昭和五六年五月初めころ(なお、右の土地交換契約書である乙第九号証には契約日が同年一月二三日と記載されているが、これは初穂の要請により実際の契約日から遡及させて記載したものである。)土地交換契約を締結したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。」に改める。
2 同一五枚目裏二行目の「乙第二号証の二ないし四」を「乙第二号証の一ないし四」に、三行目冒頭から五行目の「乙第四号証」までを「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるので真正に成立した公文書と推定される乙第三号証(ただし、後記認定に反する部分を除く。)、第四号証(ただし、添付の借地権付建物売買契約書については前掲松本延美証言によって成立を認める。)」に、一〇行目の「地目」を「現況」に、一六枚目表三行目の「九七・五四」を「九七・五九」にそれぞれ改め、末行の「認められ、」の次に「乙第三号証中右認定に反する部分は採用せず、他に」を加える。
3 同一六枚目裏二行目の「乙」の次に「第二号証の一ないし四、」を加え、五行目の「第一九」を「第一八」に改め、同行の「第二三号証」の次に「、前掲松本延美証言によって成立を認める乙第五、第六号証」を、六行目の「各証言」の次に「(ただし、いずれも後記認定に反する部分は除く。)」を、九行目の「代表者松本延美」の次に「(以下「松本」という。)」をそれぞれ加え、一〇行目の「買い取って」から末行の「前提として」までを「造成したうえ土地付き建物分譲を行うことを計画し」に、一七枚目表四行目の「同社との間で」から七、八行目の「契約を締結したこと」までを「要と同社との間で、同土地を代金一億三三六〇万円で売り渡す、右代金は遅くとも昭和五六年一二月末日までに所有権移転登記と引き換えに支払い、その時点で所有権を移転する、ただし、第三者に販売したときはその都度当該販売部分につき所有権移転登記(中間省略により要から買主に直接所有権移転登記をする。)を受けるのと引き換えに販売土地の面積割合に応じて計算して支払い、その時点で所有権を移転する、旨の契約が締結され、即日手付内金として三〇〇万円が支払われる一方、政治と同社との間で借地権付建物売買契約の形式により地上家屋(その固定資産評価額の合計額は約二六〇万円である。)を含め借地権を代金四〇〇〇万円で売り渡す旨の契約が締結され、即日四〇〇〇万円が支払われたこと」にそれぞれ改め、一〇行目の「造成工事」の前に「九区画の宅地と私道部分に分ける」を、一七枚目裏一行目の「したこと、」の次に「そして、土地付き建物分譲を始めたが、昭和五六年一二月に濱浦大吉に一区画一棟分(同所六五九番二及び同番一三。面積合計八九・七五平方メートル)を販売するにとどまっていたこと、」をそれぞれ加える。
4 同一八枚目表八行目の「第一九号証、甲第二二、第二三号証」を「第九号証、第一八ないし第二三号証、乙第六号証、第一〇号証の一及び二」に改め、一〇行目の「第六、」を削り、一〇行目から末行の「乙第八号証の一、二及び乙第一〇号証の一、二」を「乙第八号証の一及び二」に改め、一八枚目裏一行目の「各証言」の次に「(ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)」を、四行目の「交換譲渡土地」の前に「貸駐車場にしていた」を、五行目の「原告は」の次に「、譲渡所得に課税されることから」をそれぞれ加え、末行の「あづま商事を訪れ、」を削り、一九枚目表三行目の「一区画」の次に「一棟分」を加え、同行の「(川口市」から四、五行目の「平方メートル)」までを削り、五行目の「訴外濱浦大吉」を「前記濱浦」に、一九枚目裏一〇行目の「宅地」を「田」に、二〇枚目裏一行目の「六六七番一及び同番二」を「六六七番一宅地二二九・五〇平方メートル及び同番二宅地二三〇・〇〇平方メートル」にそれぞれ改める。
5 同二〇枚目裏八行目冒頭から二一枚目裏三、四行目の「消長を来すきものではないというべきである。」までを次のとおり改める。
「そこで、右の1ないし3に認定した本件土地交換の経緯に関する事実に基づき検討するに、要とあづま商事が締結した売買契約は、買主が売買代金の支払いをするまで所有権を売主に留保する旨の特約がなされ、合意解約当時第三者に転売されていた土地部分を除き売買代金の支払いがされておらず(ただし、手付金の一部は支払われていた。)、所有権移転登記手続も未了であったものであるが、反面、売買の目的たる土地が買主に引き渡され、買主において地上家屋を撤去して宅地造成を行い、分筆手続も済ませたうえ、逐次建物を建築して土地付き建物分譲を行うことを予定していたことからすれば、これに合わせて、売買代金の支払いを確保するためにその支払いと引き換えに所有権移転登記手続をすることを主眼として、所有権移転が留保される形式をとって契約書に記載されていたと見ることができ、買主は同土地を使用収益及び処分する権限を取得していたというべきであるから、その実質に着目すると、所得税法五八条一項の適用との関係では、右所有権留保の点は、交換取得土地が要からあづま商事に譲渡されていたものであると認定するのを妨げるものとはいえない。そして、要は、マンション建設用地として交換譲渡土地を必要とした初穂の要請を受け、交換の対象とするため、右交換取得土地を売買契約の合意解約によって取り戻して取得したものであり、右取戻しが、本件土地交換の実現を目的としたものであることに加え、その方法自体売買契約締結時に存した原因に基づく無効・取消しあるいはその後の債務不履行に基づく解除によってなされたものでなく、合意解約というもっぱら当事者の任意に委ねられた方法によってなされたものであることからすれば、要が有していた交換取得土地は、同条項の適用対象から除かれている「交換のために取得したと認められるもの」に該当することは明らかというべきである。
これに対し、控訴人は、要とあづま商事との間の売買契約はその後の合意解約により契約当初から存在しなかったこととなるのであるから、交換取得土地はこれに該当しないと主張するが、前記認定のとおり、要は合意解約の結果使用借権の負担のない土地を取り戻したものであって、実体的に交換取得土地が売買契約当時の原状に復したというわけではないから、契約当初から存在しなかったものと同視できないし、本来所得税法五八条一項において「交換のために取得したと認められるもの」を適用対象から除くこととしたのは、そのようなものについても譲渡資産の値上りにより所有者に帰属する増加益につき譲渡所得として課税することを繰り延べるとするならばこれが際限なく拡大されることによって譲渡資産の取得価額及びこれと対比すべき増加益が不分明となり、右の譲渡所得に対し適正な課税をする機会が失われるに至るおそれがあるためであり、合意解約による交換取得土地の取戻しも交換取得土地の売買による取得と同じく右の課税の機会を失わせるおそれを否定し得ないことからすれば、たとえ合意解約においては売買契約の効力が遡及的に失われるとする法原則上の違いはあるにせよ、右法条の適用との関係ではこれについて別異に解する理由に乏しく、前記結論を左右するものでないといわなければならない。
6 同二二枚目表二、三行目の「本件土地交換後」を「あづま商事が要及び政治から政治のため使用借権を設定された交換取得土地を含む要所有地を合計一億七三六〇万円で買い受けた後、交換取得土地につき右売買契約の合意解約のうえ控訴人と要間で本件土地交換が行われ、更に」に、四、五行目の「成立に争いのない」から六行目の「第九号証」までを「前掲甲第九、第一〇及び第一八号証、乙第九号証、成立に争いのない乙第一一号証の一及び二」に、九行目の「交換取得土地の対象は」を「交換の対象とされた造成区画は」に、一〇行目の「の各土地」を「に当たる五区画の土地」にそれぞれ改め、同行目の「原告の要求により、」の前に「私道部分は無価値であり、交換取得土地のうち私道部分を除いた宅地部分の面積と交換譲渡土地の面積とが等しくなければならないとする」を加え、同行及び末行の「の土地が加えられたこと」を「に当たる一区画の土地が加えられ、その結果交換譲渡土地の面積と交換取得土地のうち宅地部分の面積とはほぼ等しくなったこと」に改め、二二枚目裏一行目の「金銭の授受はなされなかったこと」の次に「、控訴人が被控訴人に提出した「五六年分の所得税の損失申告書」によれば、譲渡価額の総額が八三四五万四五四五円とされていること」を加える。
7 同二二枚目裏三行目冒頭から五行目末尾までを次のとおり改める。
「本件土地交換においては、あづま商事が要及び政治から政治のため使用借権の設定された交換取得土地を含む要所有地を合計一億七三六〇万円で取得しており、これによって交換取得土地の取得価格を面積比で算出すると約一億一七四七万円になるところ、一方前記判示の本件土地交換の経緯により交換譲渡土地は交換取得土地と交換のうえ要から初穂に一億一六五〇万円で売却されたものであり、交換取得土地を含む要所有地の造成に約八三九万円(面積比で交換取得土地分を算出すると約五六八万円になる。)を要している反面、右の取得価格のなかには地上家屋分(その固定資産評価額の合計は前記判示のとおり約二六〇万円である。)が含まれているとみられることを考慮に入れても、交換譲渡土地が客観的交換価値である時価を大きく上回る価格で要から初穂に売却されたとみるべきではなく、正常な取引価格の範囲内の価格をもって売却されたものというべきであり、したがって、交換譲渡土地の前記売却価格一億一六五〇万円をもって本件土地交換における譲渡収入金額と認定するのが相当である。」
二 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邉卓哉 裁判官 渡邉 温 裁判官 土屋文昭)